・糖尿病
●糖尿病ってどんな病気?
と、訊ねられた場合、「砂糖を摂り過ぎるとなってしまう病気」とか、「尿に出る病気」などと「文字」から連想して、ただ漠然と曖昧に、把握している方も、けっこういらっしゃるように思いますが、正確には糖尿病は、すい臓のランゲルハンス島から分泌されホルモンの一種インスリンの不足によって引き起こされる病気のことなのです。
インスリンは、血中の糖分量をコントロールするホルモンなので、これが不足すると血糖値をうまくコントロールできなくなり、結果、高血糖の状態が続いてしまいます。 血糖値とは、血液の中のブドウ糖の濃さを表す数値です。すなわち、血液の中にどのくらいブドウ糖が溶けているかを表わす単位が、「血糖値」なのです。 |
血糖値が高くなると、血管がボロボロになり、身体に様々な弊害が生じます。また、血糖値が高くなればなるほど、ますます糖尿病を進行させるという悪循環を引き起こしてしまうことにもなるのです。
糖尿病は、自覚症状もあまりなく、気づかないうちに病気が進行し、いつのまにか手遅れになってしまうことから、欧米ではサイレント・キラー(静かなる殺し屋)と呼ばれています。
余談ですが、
糖尿病は、紀元前1500年ごろのエジプトのパピルスにも、「尿が大量に出る病気」と記されているほど、その歴史は古く、かくも長きにわたり、人類と深く関ってきた病気でもあるようです。
●糖尿病の種類
糖尿病には、以下のような種類があります。
〈Ⅰ型糖尿病〉
インスリンを作るすい臓の細胞(β細胞)が破壊されることによって、身体の中のインスリンの量が絶対的に不足して起こる(ほとんど分泌されない)タイプです。幼少期から始まることが多く、小児糖尿病、あるいは、インスリン依存型糖尿病などと呼ばれていました。
〈Ⅱ型糖尿病〉
インスリンの分泌量が少なくなったり、インスリンの働きが鈍くなることで、体内にブドウ糖がうまく吸収されなくなって起こるタイプです。食事や運動など、生活習慣と深く関与しているといわれています。日本国の糖尿病の95%以上はこのタイプに属します。
〈遺伝子異常やその他の病気が原因の糖尿病〉
遺伝子の異常や肝臓や膵臓の病気、感染症、免疫の異常など、ほかの病気が原因となって、糖尿病が引き起こされるタイプ。
〈妊娠糖尿病〉
妊娠中に発症または発覚する糖尿病です。妊娠自体が女性の血糖値を上げやすくする傾向にあり、妊娠して初めて糖尿病が見つかる、というような例もあります。すなわち、妊娠によってインスリンのはたらきを抑えるホルモンが分泌されたり、栄養の摂り過ぎが原因で、糖代謝のコントロールがうまくいかず発症してしまうケースです。本人の自覚がないまま妊娠時に検査を受けてはじめて糖尿病だとわかるという場合もあります。糖尿病の発症に気づかず、高血糖の状態で妊娠を継続すると、母体にも胎児にも大きな影響を与えますので、妊娠する前に必ず一度血糖値をチェックしてもらうことが大切です。その結果、少しでも血糖値が高いと診断された場合、そのままにせずに糖尿病専門医に詳しく検査をしてもらうことをおすすめします。
すでに、糖尿病の診断を受けている女性が妊娠した場合を「糖尿病合併妊娠」と呼ばれています。
●糖尿病と血糖値の関係とは
血糖とは、血液中に含まれるブドウ糖のことを意味します。私たちが主食として食べている、米、パン、めん類などに含まれる炭水化物の多くは、ブドウ糖になります。腸から吸収され、血液中に溶けこんだブドウ糖(血糖)は、インスリンの働きにより、脳や筋肉などに送りこまれ、全身を動かすエネルギー源となります。
糖尿病になるとインスリンの量が不足したり、働きが鈍くなるため、ブドウ糖が必要なところにいきわたらず、血液中に溜まっていき高血糖になるのです。
●糖尿病とインスリンの関係
血液中のブドウ糖の濃度(すなわち血糖値です)が高まるとすい臓のβ細胞からインスリンが分泌され、血糖値を下げるために、血液中の余分なブドウ糖を排除しようとします。ブドウ糖は、最初、肝細胞でグリコーゲンに変えられ蓄えられます。その次に、筋肉細胞でグリコーゲンに変えられまた蓄えられます。そして最後に余ったブドウ糖が脂肪に変わり、脂肪細胞で体脂肪として蓄えられます。すなわち余分な血糖が、脂肪に変化することで、血糖値を下げることができます。
しかし、過食、偏食などで、血糖値が上がり続け、しかも運動不足によりエネルギー消費が少なくなると、脂肪細胞は増え続け、肥満になっていくのです。肥満の状態が長く続くと、インスリンの分泌量が少なくなったり、インスリンの作用が鈍くなっていして、血糖をうまく筋肉細胞に取り込めなくなり、エネルギー補給がうまくいかなくなり、急激に痩せてしまうこともあります。
●糖尿病が引き起こす合併症の恐怖
糖尿病、すなわち、高血糖になると、体の組織の異変や免疫力の低下が起こり、全身いたるところに様々な障害が生じてきます。すなわち、これが合併症です。
実は、糖尿病が恐ろしいのは、糖尿病そのものではなく、糖尿病によって引き起こされる合併症なのです。
たとえば、
・眼底出血を起こして目が見えなくなってしまったり(糖尿病性網膜障害)
・透析が必要なほど腎臓が悪くなってしまったり(糖尿病性腎臓障害)
・神経障害により足を切断しなければならなくなったり(糖尿病性神経障害)
・動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中になったり・・・。
これらは全て糖尿病によって引きこされる合併症なのです。
関節リウマチと糖尿病
近年すます患者さんの数が増加している病気が糖尿病でで、関節リウマチ以上にありふれた病気の一つです。 糖尿病全般の簡単な説明と関節リウマチ治療との関連について少しお話させていただきます。 |
血液のなかにあるブドウ糖は、すい臓から出るインスリンというホルモンによって細胞に取り込まれ、エネルギーとして利用されます。しかし、さまざまな原因によってインスリンの出が悪くなったり、インスリンの働きが鈍くなったりすると、ブドウ糖が細胞に取り込まれにくくなります。
その結果、エネルギーとして利用されなかったブドウ糖が血液のなかにたまり、血糖値が高くなっていきます。
血糖値が高い状態(高血糖)が持続する病気が糖尿病です。
正常→高血糖→糖尿病は
主に、若年で発症することが多いⅠ型糖尿病と、成人で発症することが多い2型糖尿病に分けられます。
Ⅰ型糖尿病 は、すい臓からインスリンがほとんど出ないタイプです。ですから、治療するためにはインスリンを注射で補う必要があります。
Ⅱ型糖尿病 は、インスリンの出が悪いか、うまく働かないタイプです。
治療はまず食事・運動療法を行い、それでも血糖値が下がらなければ薬物療法を行います。
日本では,全糖尿病の約95%がⅡ型糖尿病です。
糖尿病の発症には、遺伝的な要素が大きくかかわっています。
ご家族や親戚に糖尿病の方がいる場合、自分も糖尿病になる可能性が高くなります。
さらに、食べすぎ・飲みすぎ、肥満、運動不足、加齢、ストレス、妊娠などさまざまな誘因が加わって糖尿病になるのです。
糖尿病の診断には血糖値の測定が重要です。血糖値としては、空腹時や随時血糖値のほか、経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)の2時間値が診断に用いられます。
早期(軽症)の糖尿病のうちは、まったく自覚症状がありません。
ある程度糖尿病が進行すると、
のどが渇きやすい、
トイレが近くなる、
ご飯を食べてもおなかが減る、
疲れやすい などの症状が現われます。
症状から早期発見することが難しいため、早めにきちんとした糖尿病の検査を受け、適切な治療を行うことが大切です。
糖尿病を放置すると、
失明の原因となる糖尿病網膜症や人工透析の原因となる糖尿病性腎症、
手や足がしびれる糖尿病性神経障害など、さまざまな合併症を引き起こします。
関節リウマチと糖尿病の発症には直接の関連性はありません。
しかし、関節リウマチの治療で用いられる薬の中には血糖値への影響があるものがあります。
中でもステロイド剤は少なからず血糖値を上昇させる作用をもっています。ステロイドは、元々体の中で合成されるホルモンの一つで、健常人ではプレドニンに換算して5mg=錠程度が一日で分泌されています。
本来ステロイドホルモンは、しばらく食事が取れないような状況にあっても血糖値を下げないように、肝臓にブドウ糖を作らせる作用を持っています。このため、ステロイドホルモンが過剰となると、 血糖値は必要以上に上昇しやすくなり、糖尿病の発症や増悪につながることになります。
特にプレドニンで3錠(15mg)以上を内服していると、ステロイドによる糖尿病を起こしやすくなります。
これより少ない場合でも長期に渡るステロイドの使用は糖尿病の発症や増悪につながる場合があり、 注意が必要です。
治療に関しては食事、運動、薬物治療、ステロイドの減量を総合的に行う必要があります。
糖尿病もリウマチと同じく簡単に完治することのできる病気ではありませんが、自己管理と定期受診を行うことでほとんど病気を悪化させずに付き合って行くことのできる病気です。
特に肥満があるような場合には減量により完治することも多々経験されます。
くれぐれも放置することのないようにお願いします。
A. 糖尿病にはさまざまなタイプがありますが、95パーセントを占めるインスリン非依存型(・型糖尿病)について説明しましょう。 私たちの血液にはブドウ糖(体を動かす燃料になる糖分)が含まれており、血液中のブドウ糖の濃度を血糖値といいます。ある一定量を超えると尿中にブドウ糖が排泄されてしまうため、糖尿病という病名が付いています。通常、すい臓から分泌されるインスリンが細胞内にブドウ糖を入れる働きをし、血糖値を下げるのですが、インスリンの分泌量が少なかったり、体の細胞がインスリンを十分に活用できない状態になると発症します。
Q.2 糖尿病は生活習慣が原因?
A. 糖尿病の発症には遺伝的体質が関わっていて、片親が糖尿病の場合は27パーセント、両親が糖尿病だと58パーセントが発症するという報告があります。遺伝するのは糖尿病になりやすい体質で、過食や肥満、運動不足、ストレスなどが引き金となって発症します。 |
Q.3 どうして過食が引き金になるの?
A. すい臓がインスリンを分泌しても、過食によってその能力を上まわるブドウ糖が血液中に入ると、血糖値の調整がお手上げ状態になり、インスリンを生産する能力も衰えてきます。また、インスリンは血液中のブドウ糖を細胞内に蓄える役割も果たしていますが、肥満状態が続くと、「これ以上いりません」という状態になるため、血液中のブドウ糖が行き場のないまま、血液中で濃度を増すのです。
Q.4 初期には自覚症状はあるの?
A. 糖尿病は初期段階では症状があまり出ないことが大きな特徴で、自覚症状が出たら病状がかなり進行していると考えてください。おもな症状は次の通りです。
●のどが異常に乾く ●水をたくさん飲む ●トイレが近くなり、尿の量が多くなる ●強い疲労感、倦怠感がある ●甘いものが急に欲しくなる ●異常に食欲がある ●いくら食べてもやせてくる。 |
Q.5 どうしてやせるの?
A. 糖尿病になると血糖値の調整ができなくなるため、せっかく摂ったブドウ糖が尿中に捨てられます。すると代わりに脂肪やタンパク質が消費されるため、疲れやすくやせてきます。ブドウ糖が尿といっしょに排出される際、水分を伴うために尿の量が増え、体内の水分が不足してのどが乾くのです。
Q.6 糖尿病は怖いといわれるのはなぜ?
A. 糖尿病は治療せずに放置しておくと血管や神経が障害を受け、全身にさまざまな合併症が起こります。もっとも頻度が高い3大合併症は次の通りです。
●網膜(もうまく)症・・・眼球の奥にある網膜の毛細血管が破裂・出血する。成人の中途失明の原因の第1位で、2万人以上が失明。 ●腎(じん)症・・・腎臓の毛細血管(糸球体=しきゅうたい)が損傷を受けると、尿にタンパクが出る。悪化すると腎不全になり、人工透析(じんこうとうせき)が必要となる。 ●神経障害・・・めまいや立ちくらみ、手足がしびれたり、手足が冷える、ひざから下が痛む、足がよくつるなどの症状が出る。 |
Q.7 糖尿病は治らないって本当?
A. 糖尿病はきちんと治療を続けて血糖値をコントロールすれば、治ったのと同じ状態で日常生活を続けることができます。生活習慣の改善がメインとなる治療法は次の通りです。 (1)質量ともに正しい食事。(2)適度な運動。 (3)精神的な安静と睡眠などの休養。 肥満の人は適正な体重まで減量し、維持していくことも必要です。 |
Q.8 食事療法は大変だと聞きます?
・必要な量だけを食べる・・・標準体重と運動(仕事)量に見合ったカロリーを計算し、必要な量の食事を摂る。 ・バランスよく食べる・・・1日のカロリーは糖質で55~60パーセント、タンパク質で20パーセント、残りを脂質で摂る。 ・ビタミン、ミネラルを十分に摂る・・・ビタミン、ミネラルは栄養素が体内で効率よく働く潤滑油となる。 |
Q.9 食事の摂り方で注意することは?
A. 指示カロリーを守っても、まとめ食いをすると血糖値が急激に上がるので、規則正しく1日3食をできるだけ均等に摂りましょう。 「大好きな甘いものが食べられない」と悩む人も多いようですが、一般に調理の甘みに1日6グラムの砂糖を摂ってよいとされます。甘味を抑えた食事を続け、甘味に敏感な舌になるのが理想ですが、甘味を欲する場合、低カロリー甘味料をうのもよいでしょう。
Q.10 どんな運動が効果的?
A. 次の3種類の運動を組み合わせて行うことが理想です。
●動的運動⇒
有酸素運動(ウォーキング、水泳、ジョギング)、短距離走など。
●静的運動⇒
腹筋運動、腕立て伏せ、ダンベル運動など。
●体操⇒
ストレッチング、ラジオ体操、準備体操、整理体操など。
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Q.11 生活上、気をつけることは?
A. 正しい食事と適度な運動に加え、次のような点に気をつけて糖尿病を克服してください。
●自分なりのリラックス法を見つけ、ストレス解消を心がける。 ●食事療法をスムーズに行うために、糖尿病であることを公言し、周囲に理解してもらう。 ●定期的に尿糖の検査を行う。 ●喫煙は網膜症や腎症などの血管障害を誘発するので禁煙する。 ●足の壊疽(えそ=細菌が繁殖して骨まで腐る病気)を起こすケースも多いので、足はつねに清潔に保ち、異常があれば医師の診察を受ける。 ●感染症に注意する。肺炎や腎盂(じんう)腎炎などにかかり、悪化すると敗血症(はいけつしょう=血液中に病原菌が入る病気)にかかり、死亡するケースも。かぜや虫歯、切り傷、やけど、靴ずれなどにも注意を。 |
Q.12 治療を挫折しないためには?
A. 治療開始後、5年以内に治療を中断してしまう人が5割もいるといわれます。治療を中断すると必ず悪化します。糖尿病が改善されたときこそ継続することが肝心だということを覚えておいてください。 また、治療には家族の支えが大きな効果を発揮します。糖尿病食は健康食なので、家族全員で同じものを、楽しく食べることをおすすめします。
Q.13 病院に行くと、毎回やせるようにといわれます。なぜですか?
A. 肥満や過体重(太り気味)のままでは、治療しても血糖値がなかなか下がらないからです。 また、肥満・過体重では、糖尿病以外の生活習慣病、例えば高血圧や高脂血症などを発病しやすく、そうなると合併症の危険がさらに高くなってしまいます。逆に肥満・過体重の糖尿病患者さんが減量すると、血糖値も下がることが多いものです。 |
Q.14 太っている人のほうが、やせている人より元気そうに見えると思うのですが・・・
A. 確かにかっぷくのよい人が一見健康そうに見えることがあります。しかし、肥満はやはり、健康な状態ではありません。人類の誕生から現在までの歴史のほとんどは、生きるために必要な食糧を得ることで精一杯で、それ以上のエネルギー(カロリー)を手軽に摂取できるようになったのは、ごく最近のことです。必要以上のエネルギーを体内に蓄え込んだ「肥満」という状態は、ヒトにとっては想定外の、一種の異常事態ともいえます。
Q.15 なにを基準に肥満か肥満でないかを区別するのですか?
A. 肥満かそうでないかは、単に太っているか否ではなく、体内に占める体脂肪の割合で決まります。しかし体脂肪を正確に測定するのは時間や費用の点で現実的ではないので、体重と身長から BM I(body mass index, ボティーマスインデックス)という数値を計算し、その数値をもとに肥満を判定します。
Q.16 BMIはどのように計算するのですか?
A. 体重(kg)を身長(m)の二乗で割った答え(体重を身長で2回割った答え)が BM I です。例えば身長 170cm で体重 75kg の人の場合、75÷1.7÷1.7=25.95 で、小数点以下二桁を四捨五入し、BM I は 26.0 となります。
Q.17 BMIによる肥満の判定基準は?
A. BM I が 25 以上のとき、肥満と判定されます。BM I 25 以上だと、糖尿病に限らず、高脂血症や高血圧など、さまざまな生活習慣病が起きやすくなるからです。なお、BM I 18.5 以上 25 未満は普通、18.5 未満はやせと判定されます。
Q.18 具体的に、どの程度の肥満でどのくらい病気になりやすくなるか、
といったことは、わかっているのですか?
A. BM I 25 で高血圧や高中性脂肪血症、低 HDL コレステロール血症(善玉コレステロールが少なすぎる状態)、BM I 27 で糖尿病、BM I 28 で高コレステロール血症の危険がそれぞれ2倍になることが統計的にわかっています。
Q.19 やせていれば、あまり糖尿病の心配はないですね?
A. やせていれば糖尿病にならないとはいえません。とはいってもⅡ型糖尿病は、生活習慣が密接に関係して発病する病気ですから、生活習慣の乱れを示す肥満の程度が強い人ほど発病しやすいことは事実です。実際に、糖尿病の患者さんの7~8割は、現在肥満の状態にあるか、以前に肥満していた時期があった人といわれます。
なお、生活習慣とは無関係に発病するⅠ型糖尿病は、発病のしやすさと体重は相関しません。
Q.20 理想的な体重は何kgなのでしょう?
A. BM I 22 に該当する体重が標準体重とされます。なぜかというと、統計的にその体重が最も病気になりにくい、理想的な体重だとわかっているからです。身長(m)を二乗して 22 をかけると、あなたの理想体重を求められます。例えば身長 170cm の人であれば、1.7×1.7×22=63.58 で、63~64kg が理想的ということです。
Q.21 標準体重になるまで減量しないとだめですか?
A. 標準体重になるまで減量するのが理想ですが、長年の生活習慣の結果として生じた肥満の状態を短時間で解消するのは、なかなか難しいことです。かといって、少しの減量では全く意味がないというわけでもありません。治療のため急速に減量する必要がある場合を除けば、むしろ最初は2~3カ月かけて体重の3~5パーセントぐらい(80kg の人で2~4kg)を減らす程度の、比較的簡単な目標を立てて取り組むほうが、無理なくスタートできます。日本人の場合、この程度の減量でも血糖値や血圧などが目に見えて下がることが少なくありません。
Q.22 減量すれば糖尿病は治りますか?
A. 肥満・過体重の糖尿病の人が減量すると、血糖値が下がることはよくあることですが、それで糖尿病が治ったと思うのは早とちり。減量を始める以前の生活スタイルに戻ってしまえば、すぐにまた血糖値は高くなってしまいます。一度、糖尿病と診断されるほど血糖値が高くなったということは、その人が糖尿病体質であるためです。減量し血糖値が下がったのであれば、その状態が長く続くように、体重管理を続けていってください。
Q.23 最近「内臓脂肪」という言葉をよく耳にしますが、内臓脂肪とはなんですか?
A. 体脂肪のうち、皮膚の下の組織に蓄積された脂肪を「皮下脂肪」といい、おなかの中の内臓周囲に蓄積したものを「内臓脂肪」といいます。からだに悪さをし、生活習慣病の発病と密接に関係しているのは内臓脂肪のほうです。しかも内臓脂肪の蓄積は外見からはあまり目立たず、それほど太っているようには見えない、いわゆる「隠れ肥満」であることが少なくありません。
Q.24 内臓の周囲に溜まっている脂肪が多いか少ないかを、どのように調べるのですか?
A. 正確には CTスキャンなどの機器を用いて判断する必要がありますが、およその目安として、ウエストサイズが参考になります。日本人の場合、BM I 25 以上で、ウエストが男性で 85cm 以上、女性で 90cm 以上の場合、内臓脂肪の蓄積による弊害が考えられます。
Q.25 おなかの脂肪を減らしてウエストを絞るダイエット法を教えてください。
A. からだの一部の脂肪だけを減らすダイエット法はありません。腹筋運動でウエストサイズが減ることはありますが、これは、ゆるんでいたおなかの筋肉が引き締まるためで、おなかの脂肪が部分的に減ったわけではありません。減量やダイエットの基本は、やはり食事療法と運動療法を着実に続けることで、バランスよく全身を引き締めていくことです。なお、内臓脂肪は皮下脂肪に比べると、運動によるエネルギー消費で減りやすいことがわかっています。
Q.26 減量に失敗すると、やり直しがきかなくなると聞きましたが・・・
A. 一度減量に失敗したからといって、もう減量は無理だとあきらめる必要はありません。ただし、減量には「適応現象」と呼ばれる段階があることは確かです。食事療法をしばらく続けていると、からだが次第に慣れてきて、体重が減らなくなる現象です。その段階を乗り切れば体重はまた減り始めますが、そこで減量を中止すると、リバウンドで減量前よりもかえって太ってしまったり、減量を再開しても、以前より体重が減りにくくなることがあります。
Q.27 糖尿病が重くなると減量しなくても自然にやせてくるそうですが、本当ですか?
A. 本当です。インスリンを分泌している膵臓のβ細胞が障害されてインスリン分泌が低下すると、血液中のブドウ糖を細胞に取り込む力はそれまで以上に低下してしまいます。その結果、細胞に必要な栄養が行かなくなる一方で、からだに必要なエネルギーが尿糖として放出されたり、ブドウ糖のかわりに脂肪をエネルギー源として使うために、体重は急に減ってきます。
Q.28 糖尿病の薬の副作用で太ることがあると聞きましたが・・・
A. 糖尿病の薬のうち体重を増やすように作用するのは、インスリン製剤とインスリンの分泌を促すスルフォニル尿素薬(SU 薬)という種類の飲み薬です。2型糖尿病の治療でこれらの薬を使用する場合、食事療法と運動療法をきちんと行うことが、より大切になります。なお、医師が薬を処方するときは、そのような薬のマイナス面も十分考慮した上で処方するのですから、患者さんの判断で薬を飲むのを中止するのはよくありません。不安があれば納得いくまで医師にたずねてください。
Q.29 減量の必要性も食事療法・運動療法の大切さも理解はできますが、
努力をしながら細々と長生きするより、私は太く短く生きたいと思っています。
A. そのように言って糖尿病の治療を先延ばしにする人をよくみかけますが、本当に糖尿病を理解したうえで言っているのか、少し疑問です。糖尿病の場合、治療せずにいたからといってすぐに死が訪れるわけではなく、多くの合併症で長期間苦しむことになります。そのことに目を向けようとせず、糖尿病の治療を単にわずらわしいものだと思い込んでいるだけではないでしょうか。
考え方を急に 180度変えることは難しいものですが、少しずつ糖尿病を理解して、糖尿病を受け入れ治療に取り組んでください。なによりも、糖尿病をきちんと治療し続けることは、決して細々と長生きするということではなくて、健康的で有為な生涯を送るための手段だということに、早く気付いてほしいと思います。 |
【誤解を解くための基礎知識】
ここでは、成人型の糖尿病(インスリン非依存型糖尿病について)
1)「尿糖がでること=糖尿病」ではない
糖尿病は尿糖が出る病気だと考えていませんか。そう考えてしまうと、尿に糖が出なくなったから治ったなどと誤解されかねません。糖尿病は血液中の糖(ブドウ糖)が正常以上に高くなる病気であって、その結果として尿に糖がでるのです。しかも、血糖が170mg/dl程度に上昇しなければ尿糖は出ませんし、腎臓の機能の低下している方では、それ以上に血糖が上昇していても尿糖が出ない可能性もあります。
2)糖尿病にかかっても症状は無いことの方が多い。(いつ糖尿病にかかったかは分からない)
糖尿病の症状として、よく喉が渇く、尿量が多くなる、疲れやすい、身体がだるい、などがあげられています。しかし、こういった症状はよっぽど血糖が上昇しない限り出ません。このような症状が出た頃にはもうかなり糖尿病は進行しているといえます。早期に糖尿病を発見し、早いうちから治療を開始するためには、検診が不可欠です。ときたま、目が良く見えなくなって眼科を受診したら糖尿病と診断されたという患者さんがいます。糖尿病の症状を自覚できないまま、合併症が進行して、合併症の症状が出てしまったケースです。
3)インスリン治療はやめられるときもある
糖尿病が進行し、血糖降下剤だけでは血糖が改善しない場合、医師はインスリン注射を勧めます。最近は以前より早い段階でインスリン注射を開始する傾向があります。これは、早くからインスリン注射を開始することにより早く高血糖を是正し、高血糖による障害を防いだり、身体のなかのインスリンを温存することを目的としているようです。このような場合では、高血糖が是正された後、インスリンから経口剤に切り替えられる場合もあります。
4)糖尿病の治療の第一の目的は合併症の予防である
糖尿病でこわいのは、合併症です。
最近では糖尿病が原因で失明する患者さんが増えていますし、透析患者さんのなかの糖尿病患者さんの比率も増えてきています。このような合併症の進行を抑えることが糖尿病の治療の目的です。胃潰瘍や肺炎などは病気の状態に応じて症状が変化します。病気が悪ければ症状も悪くなりますし、病気が改善してくれば症状も消失します。これに対して、糖尿病の場合は多少病状が悪くても症状はありません。「症状が出ていないから、適当に治療していればいいや。」などと考えているうちに、合併症は静かに進行していくわけです。
もう一つ考えなければならないことは動脈硬化症です。動脈硬化症は血管の内側にコレステロールが蓄積し動脈が徐々に硬くなったり、中が狭くなったりする病気です。心臓の血管が細くなってつまってしまえば心筋梗塞、脳の血管がつまってしまえば脳梗塞となります。糖尿病があると動脈硬化になりやすくなり、心筋梗塞や脳梗塞を発症する可能性も高くなります。動脈硬化は糖尿病が軽いうちやまだ糖尿病予備軍の段階から始まっています。糖尿病の管理とともに動脈硬化への対策が必要となります。
5)現代医学では完全に治癒させることはできない
いろいろな民間療法や健康食品の広告のなかで、「糖尿病が治る!」などと宣伝している場合があります。しかし、残念ながら現代医学ではまだ、糖尿病を完全に治すことはできないといわれています。しかし、血糖を改善し、合併症を防ぎ、健康な人と同じように生活できるようにすることはできます。人によっては血糖を正常値まで下げることもできます。昔から「腹八分目は健康に良い」などと言いますが、糖尿病食は栄養のバランスも考慮され、しかも必要最小限のカロリーをとるという観点から見れば、糖尿病のない一般の人にも勧められる健康食といえます。
6)運動療法は食べたカロリーを消費するために行うのではない
糖尿病の治療の基本は、食事療法と運動療法ですが、運動は食べたカロリーを消費するため、あるいは運動すればそのとき一時的に血糖が下がるため、と思っている人がいます。本来の運動療法の目的は、運動によりインスリンを有効に使えるようにすることです。
糖尿病の原因は、インスリンという血糖を下げるホルモンの作用不足にあります。作用が不足する原因は二つあります。一つはインスリン自体が少なくなること。もう一つはインスリンはあっても、それがうまく効かないこと。現在この二つの両方が糖尿病の原因であると考えられています。運動はそれによりインスリンの効果を高める作用があるので、糖尿病の原因の後者の方を改善する役割を担っているのです。
7)血糖が高いままだと、糖尿病がさらに悪化する
最近の研究では、血糖が高いこと自体が身体に悪影響を及ぼすことが分かってきました。血糖が高いことで、インスリンの分泌も悪くなり、しかもインスリンの効きも悪くなるのです。したがって、早期に高血糖を是正することでこれらの悪影響を排除し、糖尿病の進行を遅らせることができると考えられています。
8)糖尿病は自分で治療する病気である
糖尿病の治療の根本は、日常生活にあります。したがって、いくら医者が食事療法や運療法の必要性を訴えたところで、患者さんが実践しなければ全く治療効果は上がりません。症状も出ないだけに患者さん本人の自覚が最も必要な病気です。
9)力が出ないのは食事療法のせいではない
食事療法を始め、以前より食事量が減ると、「こんなに少なくては力が入らない。」と不満をいう患者さんがいます。たしかに腹一杯食べると力が入るような気がします。しかし、これはあくまでも気がするだけで、食べたカロリーは身体に蓄えられ、食べていないときにそれは少しずつそこからエネルギーが供給されます。多く食べようが、すくなく食べようが、そのとき供給される量は同じです。糖尿病食では、その人その人に応じた必要十分なカロリーを計算しており、通常足らなくなることはありません。本当に足らなければ、体重が減りますので分かります。(ただし、糖尿病が悪化している場合、食べすぎによりさらに血糖が上昇した場合でも、体重が減ることがあり注意が必要です。)力が入らない原因として、まだ血糖コントロールが不十分である可能性があげられます。血糖コントロールが悪い場合、空腹感が出やすいからです。
10)おなかがすくのは糖尿病のせいかもしれない
糖尿病の患者さんの中にはおなかがすいてどうしてもたくさん食べてしまう人がいます。もしかすると、それは糖尿病が悪化しているためかもしれません。私たちの身体を構成する細胞一つ一つはブドウ糖(グルコース)をエネルギー源としています。インスリンは血液中のブドウ糖を細胞の中に運び込む役割を持っています。インスリンが不足している状態、糖尿病状態では血液中のブドウ糖が細胞の中に入れない状態となっています。つまり、糖尿病状態では、血液中にブドウ糖がたくさんあるにもかかわらず、細胞の中はエネルギー不足となっているのです。これは身体にとってエネルギーが不足していると認識され、その信号が脳に伝わります。ですから糖尿病が改善すると異常な空腹感もなくなる方も多いようです。